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NGKストーリー

09 開発者の執念が成し遂げたNOxセンサーの開発

センサー製品を途絶えさせてはならないとの思いから非公式に始まったNOxセンサーの開発。さまざまな模索を続ける中で発想の転換を行い、世界で初めての実用化に成功した。それを可能にしたのは、「このままじゃ終われない」との思いと決して諦めない心、そして実用化に向けた執念であった。

たった二人で始まった非公式の研究開発

それはたった二人での出発だった。

当社は1989(平成元)年、事業の一つに育てていた自動車用酸素センサーにつき、日本特殊陶業との合弁会社の設立を機にこの分野から撤退した。そして1992年には機能品事業部センサー部を技術移管やサービスパーツの管理を目的としたセンサー室へと縮小し、二人の技術者を配属した。

酸素センサーに携わってきた人間にとって悔しい選択だった。1960年からジルコニア磁器の研究を続け、多くの知見を蓄積している。セラミック技術を使ったセンサーの伝統をここで途絶えさせてしまっていいのだろうか。このままじゃ終われない。終わりたくない。センサー室の二人のそうした思いからNOxセンサーの開発がスタートする。公式ではない。あくまで非公式、アンダーグラウンドでの取り組みだった。

酸素センサー

たった1週間の差が明暗を分ける

二人がNOxセンサーに注目したのには酸素センサーとNOxセンサーとの間に技術的な親和性があったためだ。しかし、まもなく壁に突き当たることになる。当初考えていた方式では高精度な測定が難しいのである。苦しんだ末に二人がたどり着いたのが「部屋から何が出てくるか」ではなく「部屋に何が残っているか」という発想の転換だった。世界で初めて実用化可能なNOxセンサーの基本原理を導き出したのだ。

1994(平成6)年4月21日、二人の連名で基本特許を出願した。後にこの出願時期がきわめてスリリングだったことが判明する。当社が出願した1週間後には英国、さらに3カ月後には国内の企業から同様の出願がなされていた。たった1週間の差。関係者は「運がよかっただけ」の一言だが、それだけではないだろう。酸素センサーの撤退直後から地道に研究を続けたという事実がなければ、この運をたぐり寄せることはできなかっただろう。まさにNOxセンサー事業の命運を分けた1週間だった。

日本ガイシ高精度NOxセンサーの基本原理

1:第1室で排ガス中の酸素をあらかじめ取り除く
2:第1室で排ガス中の可燃ガスを燃焼させておく
3:第1室で排ガス中のNO2をNOに変換する
4:第2室でNOをNO還元触媒で分解し、分解時に発生する酸素の量を測定する
ex. 2NO → N2 + O2

出願特許 従来方式(左図)は2室独立による測定だったが、新方式(右図)は2室を番号12から番号14を通過して測定した

事業化を決定するが苦難は続く

1995(平成7)年、基本コンセプトを基に詳細設計と検証を進めたが、この間に製作したサンプルは200以上となり、粘り強い作業を繰り返しながら最終形に近づけていった。

製品の評価を続けるかたわら自動車メーカーへNOxセンサーの提案を開始。しかし、国内自動車メーカーはいずれも「要らない」の一言で、欧州自動車メーカーの反応は上々だったものの結局は採用には至らなかった。

2001年には、ある欧州自動車メーカーの採用を機に事業化を決定。しかし、本格受注には至らず雌伏状態が続いた。

10年間耐え抜き黒字化を達成

2001年の事業化から2010年までNOxセンサー事業は一貫して赤字だった。2009年には品質の不具合で引当金も計上し、経営陣を嘆かせた。それでも同事業からの撤退が決断されなかったのは、NOxセンサーの将来性に対する確固たる信念があったからだ。

そして、ついに2010年を境に当社製NOxセンサーのオーダーが急増することになった。それはトラックでの規制強化に加えて乗用車での規制も始まったからだ。

NOxセンサー

市場を独占できたのは取得した特許に守られたことも大きかった。しかし、その特許も2015年に失効し、新たな技術研究や新製品の開発を進めている。

たった二人で始まったNOxセンサーへの挑戦は大きく花開いた。これを可能にしたのは決して諦めない開発者の不屈の心と赤字を耐え抜いた経営陣の信念であった。そして「センサー製品を途絶えさせてはならない」との二人の執念がなければ生まれることはなかっただろう。二人のうちの一人、加藤伸秀氏はNOxセンサー事業として開花した姿を見ることなく2002年に亡くなった。センサー事業をさらに発展させていくことは、酸素センサー時代から事業の発展に尽くし、NOxセンサーを遺してくれた加藤氏に対する我々の責任でもある。

センサーの素子を生産するNGKセラミックデバイス石川工場

センサーを組み立てるNGKセラミックスポーランド

NOxセンサー搭載車台数とセンサー総需要(2018年決算説明時)