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NGKストーリー

04 NAS電池を進化させるきっかけとなった火災事故

2011(平成23)年9月に発生したNAS電池の火災事故は当社にとって衝撃的な出来事となった。安全と安心を重視し、直ちにほかのお客さまにも運転の停止をお願いするとともに、すぐさま社長指示に基づき原因の究明と対策に乗り出し、原因の特定とともに安全強化策を確立し、運転再開にこぎ着けた。その一方で、基本設計を根本から見直すきっかけとなり、「万が一を万が一にしない製品設計や検査体制にしておくべき」との貴重な教訓を得ることにもなった。

2011年9月21日火災事故発生

事故の一報がもたらされたのは2011(平成23)年9月21日の早朝だった。既設ユーザーのNAS電池が炎上中との連絡。営業部門とNAS事業部のメンバーは「まさか」と思いつつ現場に向かった。到着した時点でも火災は激しく続いており、徐々に炎が収まったものの、消防当局が完全鎮火を確認したのは、10月5日だった。

NAS事業部のメンバーは信じられなかった。およそ1年半前に同じような火災事故を起こしていたが、この時は高出力を重視した特殊タイプ。一方、今回は標準タイプであり、原理的に火災事故を起こさないと考えられていたからである。

火災発生当日にNAS事業部だけでなく各事業部門の責任者、本社部門を加えた部門横断的な事故調査委員会を発足させたことがその衝撃の大きさを物語っていた。状況の把握、事故原因の追究に着手するとともにユーザー各社に運転休止を要請した。もちろん生産も中断した。

原因究明に向けあらゆる可能性を探索

全社品質会議を設け、原因や再発防止策などさまざまな技術課題を検討した。しかし、火災現場のNAS電池はほとんどが焼失し、手掛りは直前までモニターしていたデータだけだった。そこで、事故につながるケースを再現し、試験、検証するほかなく、社内だけでなく外部の協力も得ながら突き詰めていった。

こうして導き出された結論は、「単電池内でクリアランス異常により局部的な高温が発生し、単電池1本が破壊された。これをきっかけに、モジュール電池内部で短絡が生じ、複数の単電池の破壊につながり、モジュール電池全体にまで延焼した」との推定であった。製造不良、もしくは部品の初期欠陥が原因というのが検討会の下した結論だった。

これを基に、既設製品への安全対策を進める一方、リモート監視強化、火災発生時の対応についても具体化がなされた。また単電池組立工程の全数検査の導入など製造工程の管理も強化した。

火災事故の原因

安全強化対策

オンリーワン技術への強い使命感

原因の究明と再発防止策の具体化とともにNAS電池の基本設計も見直した。原因が構造上の問題である可能性は低いのになぜか。NAS事業部のメンバーは振り返る。「今はNAS電池の開発当時を知る人も少なくなった。だったらこれを機会にもう一度根本から学び直そう。その上で基本設計を見直そうとしたわけです」。

また事業継続について、先の関係者は語る。「世界で唯一、当社だけが提供し、お客さまからの期待も大きい製品でした。再生可能エネルギーへの期待も高まっており、オンリーワン製品を供給し続けなければならないという使命感から生産を再開し、事業を継続すべきと考えたのです」。

NAS事業部のみならず、全社横断的な従業員の奮闘に加えて、お客さま、社外の有識者などの支援もあり、事故から約半年後の2012(平成24)年春には原因の究明と安全強化対策を確立し、7月には既設NAS電池の運転を順次再開した。そして同年末に製造工程、検査工程を強化した電池生産を再開することができた。

火災事故の原因究明を受け、2012年6月から操業を再開したNAS電池工場

火災事故をきっかけに進化したNAS電池

標準型のNAS電池の火災事故は当社にとって「想定外」であった。しかし、「万が一のことは起こりうる。重要なのは万が一火災が発生したとしても類焼させない設計、工夫、対策を行っておくべきである」との教訓をもたらすことになった。

2013(平成25)年、当社は基本設計から見直して開発したコンテナ型のNAS電池を発表した。

NAS事業部の関係者は「あってはならない事故でしたが、これを機に技術レベルが一段とアップしたことは確かです」と指摘した上で、「事故発生から運転再開までは文字どおり『死ぬ思い』でしたが、全社を挙げての協力で乗り切ることができた。その協力体制がなければ今日のNAS事業はなかったでしょう」と付け加えた。

コンテナ型NAS電池