2015(平成27)年、当社は自動車用触媒担体の一部の取り引きに関する反トラスト法違反について米国司法省と司法取引に合意したことを発表した。当社のコンプライアンス体制は着実に強化された。しかし、「要請に応える」というコンプライアスの原義に立てば、その取り組みは依然として道半ばにある。
米国司法省からの召喚令状
2011(平成23)年10月18日、米国にあるNGKオートモーティブセラミックスUSAは司法省からのSubpoena(召喚令状)を受け取った。内容は自動車用触媒担体のカルテルに関する文書提出命令だった。当社は調査への全面協力を表明し、法務部や業務監査部、経営企画室、CSR推進室のメンバーで構成される社内調査チームを結成し、司法省に対するProffer(口頭での説明)を開始した。
3年も続いた非公開調査活動
召喚令状を受領して以降、弁護士事務所助言の下、彼らをパートナーとして社内調査とProfferを実施し、司法省の調査に積極的に協力した。さらに、社内調査そのものの公正さを証明するために、弁護士や警察庁長官経験者である社外役員、またこれまで当社との関係が無い社外の米国法弁護士資格を有する弁護士で構成した独立委員会を立ち上げた。独立委員会が社内調査の指揮と米国側との折衝を行い、その指揮下で社内調査チームが関連する書類やメールを精査する活動が3年余り続いた。
不祥事の調査というネガティブな取り組みであることに加え、公正を期するための社内非公開の中、米国側からの厳しい指摘が何度もなされるなど、一連の経緯の中で最も苦しい時期であった。
評価された競争法コンプライアンス・プログラム
司法当局へのProfferだけで問題は解決されない。今後の対策が必要であり、コンプライアンス体制の強化策を検討し、具体化させていった。
2014年12月に導入されたのが「競争法コンプライアンス・プログラム」である。その主な骨子は、①法令順守に関し取締役会が全ての責任を担う、②社外取締役で構成された独立委員会が同プログラムの実施状況と実効性の検証等を行う、③競争法全社統括責任者がプログラムの立案と実効性について責任を負う、の3点である。
このプログラムに対し、司法省側は当初冷ややかであったという。しかし、懇切丁寧に説明していくうちに徐々にその内容が認められた。そして、最終的には競争法コンプライアンスに関するモデル企業として評価されるまでになった。
米国時間の2015年9月3日、当社は「米国司法省との間で自動車用触媒担体の取引の一部に関して米国反トラスト法違反などがあったとして、罰金6,530万米ドルを支払うことを主な内容とする司法取引に合意した」との発表を行った。
合意以後、競争法順守のための社内ルールを強化する一方、経営倫理委員会を設置し、またグローバルコンプライアンス室(現グループコンプライアンス部)を発足させるなど、コンプライアンス体制を強化してきた。
2015年9月4日に公表した自動車触媒担体に関する米国司法省との合意について
当社は9月4日、自動車用触媒担体に関する米国司法省との合意について、事実の概要や再発防止策などを公表しました。公表内容は次の通りです。
当社は2015年9月3日(米国時間)、米国司法省との間で自動車用触媒担体の取引の一部に関して米国反トラスト法違反などがあったとして、罰金6,530万米ドル(約78億円)を支払うことを主な内容とする司法取引に合意いたしました。
当社の米国子会社が2011年10月に米国司法省より文書提出命令を受領後、自動車用触媒担体に関する当該調査に対し、当社は2012年に独立委員会を設置するなど全面的に協力してまいりました。このたび適用法令や事実関係などを総合的に検討した結果、同省との間で司法取引に合意することを決定いたしました。
2015年3月期決算において競争法関連損失引当金93億円を計上しておりましたが、2016年3月期第2四半期連結累計期間において、今回の司法取引合意による罰金額の決定を受け、当該引当金との差額約15億円を営業外収益として計上する予定です。2016年3月期連結業績予想については変更しておりません。
本件が当社グループと会社に及ぼす影響の大きさを真摯に受け止め、経営としての深い反省と再発防止を決意しております。代表取締役は月次報酬の50%を3カ月、その他の取締役は月次報酬の30%を3カ月、執行役員はそれに準じた月次報酬の自主返上を行うことといたしました。
当社グループでは法令順守を重要な経営課題と位置付けており、本件への対応の過程で、競争法順守に関する社内ルールを強化した上で、社外取締役と社外監査役、弁護士をメンバーとする競争法順守に関する独立委員会を設置し、グローバルコンプライアンス室を設置するなど、コンプライアンス体制を整備してまいりました。今後とも、コンプライアンス体制のさらなる強化、全役員と全従業員を対象とした競争法をはじめとする関係法令教育の徹底などにより、再発防止と信頼回復に一層努力してまいります。
お取引先さまや株主さまをはじめ関係者の皆さまに多大なるご心配をお掛けいたしましたことを深くお詫び申し上げます。
「要請に応える」コンプライアンスの原義へ
経営者や全ての従業員が法令に違反しない仕組みづくりは整いつつあるが、十分ではない、何が必要か。コンプライアス体制強化に携わってきた関係者によれば、それは「人と人とのコミュニケーションであり、それを可能にする社内風土、言い換えれば風通しのいい会社であるかどうかだ」という。
米国司法省との一連の交渉は苦い経験となった。しかし、それによって得られたコンプライアンス体制の強化は、独立委員会メンバーをはじめとする社外役員の尽力、社内調査メンバーをコアとしたコンプライアンス部門の使命感と奮闘、そして経営幹部のみならず中堅社員の中にも生まれた「会社再生のための、極(きわ)めて前向きな取り組み」という思い、これらに支えられて達成されたものだった。
コンプライアンスの意味を調べると「要求や命令への服従」あるいは「法令順守」という説明が出てくる。しかし、その原義は「要請に応える」ことである。服従とか順守ならば、それを守りさえすればいいということになりかねないが、原義通りのコンプライアンスに立ち戻れば、そうでなくなる。「日々、ものを開発し、作って、社会に届けるという行為を通じ、社会からの期待、要請に応える」ということがコンプライアンスとなる。以前と比べるとコンプライアンス意識が浸透しつつある。しかし、その原義に立てば、依然として道半ばにある。「仏つくって魂入れず」、制度の整備で終わりでなく、絶えず変化する社会の要請を把握し、グループ全体で周知徹底を図り、コンプライアンスの強化を図っていくことが求められる。
日本ガイシグループにおける競争法に関するコンプライアンス強化策
実施回数 | 規定整備 | 社内体制の構築 | 教育 |
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1997年度 |
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2011年度 |
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2012年度 |
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2013年度 |
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2014年度 |
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2015年度 |
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2016年度 |
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2017年度 |
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2018年度 |
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競争法の順守を全社に徹底するため全社を対象に配布された「競争法ハンドブック」。
役員と基幹職のほか、業務上、競争法と関連性が深い営業や技術部門などでは個人に1冊を配布した